林業界最大の問題とは何か? 新たな森林ビジネスが求められている
2020/03/19
たとえば親から相続した森林の場所を確定したいという依頼があると、いくつかの手がかりを押さえる。まず調べるのは、登記簿と公図、森林計画図、あれば市町村の林地台帳だ。いずれも正確さはイマイチだがヒントが含まれている。本当は測量をして作られる地籍図があればすぐ解決するのだが、地籍図がつくられているのは国土の半分程度である。それでも各地図や資料を突き合わせていくと、少しずつ見えてくる。
そして森林のある集落を訪ねて山に詳しい人を探し出す。かつて山仕事をしていた人がいるとよい。その上で現地を歩いて、それぞれの記憶や現場の痕跡を探していく。林地の所有者が違うと、多くは林相も違ってくる。たとえば植林した時期が違うと、現在生えている木々の高さ・太さも違ってくるから境界線らしいと想像できる。
毎木調査の様子
「現在はGPSなどを使えば、自分が歩いたルートを地図に落とせますから確認しやすいです。そこで仮杭を打ちます」(高橋啓代表)。
これで終了ではない。仮杭は一方的な推定だから、隣地の所有者に立ち会ってもらって、ここを境界とすることに了承をもらわねばならない。お互いの言い分や記憶に基づき調整するのだ。所有森林の範囲が確定できれば森林経営計画を立てて林業関連の補助金も使えるようになる。
「お勧めは、個人ではなく集落全体で境界線確定事業を行うことです。するとお互いの情報が集まり、スムーズに決めていくことができます」(高橋啓代表)。
ほかにも細かな手続きや交渉ごとはあるが、林地関連の法律に通じている人がいると、比較的進みやすい。諦めたら森林は利用できず実質的に消えたも同然になる。そうした事態をくい止める、新たな森林ビジネスが求められているのだ。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。