無人駅に木製アートベンチを! 地域と森を繋ぐプロジェクトとは
2020/05/25

地域木材を使用し、無人駅に地域を表すシンボルチェアを設置する『ツリー・バイ・アート』プロジェクト。この企画に込められた想いとは。アートの視点から森林資源の多様な可能性を考える、一般社団法人創造再生研究所所長の小見山將昭氏による連載コラム。
FOREST×ART
森をアートでつなぐ人と企画の紹介
Episode1.TREE×ART
人と森をつなぐ『天使の椅子』
〈目次〉
● 木のアートベンチ誕生物語
● 無人駅設置とデザイン公募
● 駅に集まる星たちと希望を
● 音楽を日本木材で奏でる
木のアートベンチ誕生物語
この物語は、2010年の夏の羽越本線(新潟)の無人駅から始まった。バックパックの旅でバスを乗り継ぎ新潟の温泉に宿泊し、帰路につく最寄り駅まで約4km歩いた。道中で歩いているのは子供か老人だけで、商店も寂しく、地域が車からの目線で作られているのを実感した。
僅か30cm上からの目線だが風土はフキノトウの様に姿を見せない。地面を歩かないと地域の特色は感じられない。そんな思いを抱え、或る羽越本線の無人駅に着いた。
駅前には桂の樹が植えられ、地元の小学生の地域を紹介したメッセージボードが、樹の前に掲げられていた。コンクリートの駅の階段に腰掛け「地域を表す木のベンチがあればいいのに?」とバックパッカーとして呟いた。
カナダに滞在した時、森の中にも寄贈された木のオリジナル・デザインベンチがあった事が思い出され、スケッチブックにクレパスで桂の木から連想した『月への階段』という椅子のデザイン描きながら列車を待った。
帰京し『TREE×ART ツリー・バイ・アート』という企画を考え、林野庁林政部長(現/農林水産事務次官)の末松広行氏へ渡した。基本コンセプトは、①地域の特徴を表したシンボルチェアー、②地産木材を使う、③地元のデザインと製造、という事にした。
初めて駅に降りた旅行者が、その地域に興味を持ち、森を歩く導線が、駅を起点に出来ていけばという願いをこめた。
無人駅設置とデザイン公募
早速、無人駅設置を想定しJRや各地の私鉄と交渉を開始したが、全く相手にされずに秋を迎えた。そんな折、静岡県の天竜浜名湖線であれば可能であると、浜町市天竜区の林業関係者から連絡が入った。
天竜木材を普及したいという一心の元、熱心に交渉していたのは、カリスマ林業家の故榊原正三氏、元浜松市職員の小澤一惠氏で、お二人の並ならぬ尽力に感服した。私は意気に感じ、根気よく掛川から新所原までの39駅中30余の無人駅と、その地域性を見て回った。
地産木材の天竜杉を使う事を考えると、第1号の設置は、天竜林業の窓口となる駅が望ましく、街が放つ独特の歴史的な匂いから、二俣本町駅を選んだ。二俣川が天竜川に注ぐ場所で、近くには画家秋野不矩美術館や、天竜林業高校(現天竜高校に合併/森林科・森林科学科)があった。
木材提供は天然乾燥トレーサビリティ木材の先駆けの天竜T.S.ドライシステム協同組合、製造は宮大工の二橋元巳氏と、チェーンソーアーティストの中谷博彦氏、基本デザインは先ずは私が行い、デザイン協力に大阪のアンデコ、設置式のモデルは地元の歯科衛生士の山田早織さん(現/花島姓)というラインアップで進んで行った。
そして2011年3月3日に、第3セクター天竜浜名湖鉄道の代表も参列し設置式が執り行われ、静岡県の新聞社・テレビ局を中心に報道が行われた。