「低コスト造林」一辺倒でいいのか? 良い山づくりに必要なものとは
2019/09/10
丁寧に育てらてた人工林。良い山づくりとコストダウンを両立させたい。
例えば、熟練のシェフが経営するレストランが経営改善のために調理作業の一部を機械化してコストダウンを図ったとして、できあがった料理が同じ味なら、それまでと同じ値段で提供することができるから、採算も良くなる。ところが、機械化したことで味が落ちてしまったなら、それでも客足を引き留めるために値段を下げなければならないかもしれない。コストは下がったが、単価も下がるのでは、経営に何らプラスにならない。
植栽本数を減らせば、その後、木を育てる中で、形質の悪い木を間引く間伐作業の選択肢が減る。50年生に育った時の密度を1,000本/ha程度と想定すれば、植栽本数2,000本/haでは、50年間で1,000本しか間引けないことになる。それでも、残る1,000本が形質の良い木に育つように工夫する。その工夫まで考えられていてこそ、初めて「低コスト造林」と言えるのではないか。
山づくりを楽しくしたい
国の林業政策が皆伐再造林を進める方針に切り替わり、全国各地で皆伐の現場が増えている。そもそも、40年や50年で皆伐しなければならないと決まっているわけでもないのに、右へ倣えで皆伐が指向されていることにも違和感を禁じ得ないが、皆伐した後の山づくりも、とにかく目先のコストを下げることばかりに躍起となっているケースが多いようで、こんなことでいいのだろうかと心配になる。
自然は多様であり、林業も現場ごとの答えがあっていい。だから、もちろん、「低コスト造林」も選択肢に入るのだろうが、少なくとも、どんな山をつくり、どんな木を育てるのかの方針は決めておくべきではないか。50年後、100年後の山の姿を思い描いて、山仕事にいそしむ。その方がずっと楽しいと思うのだが、どうだろうか。
将来の山の姿を楽しみに山仕事にいそしみたい。
PROFILE
林業ライター
赤堀楠雄
1963年生まれ、東京都出身。大学卒業後、10年余にわたる林業・木材業界新聞社勤務を経て99年よりフリーライターとしての活動を開始。現在は林業・ 木材分野の専門ライターとして全国の森や林業地に足を運ぶ。