林業の新潮流「特殊伐採(アーボリカルチャー)」とは? 日本で大注目の新技術に迫る
2019/11/15

近年、林業界で新たな動きとして広がっている「特殊伐採」。林業界の動きというより、林業従事者の中に挑戦する人が増えてきたというべきだろうか。これまで植林や草刈り、伐採などが中心の仕事だったが、新たな仕事とし始めたのだ。(前編)
アイキャッチ画像:アーボリカルチャー
特殊伐採とは何か
簡単に言えば、高木を根元から倒さず伐採する技術である。人が樹上に登って梢に近い上の部分から少しずつ伐り、それをロープを使ってゆっくり下ろしたり、クレーンで吊り下げたりして安全に地面に下ろす。高所作業車のカーゴに直接人が乗り込み樹冠部にたどり着く方法もある。幹ではなく枝を伐る場合もある。そんな方法を取るのは、木の近くに建築物や送電線などがあって普通に倒すと破壊してしまう恐れがある、急斜面で伐採したら倒木が滑り落ちる……などのケースで行われるのである。

林業界だけでなく造園業界でも広がっていて、海外ではアーボリカルチャーという言葉で広がっている。アーボリは樹木、カルチャーは耕す・栽培する意味で、高木の取扱い術の一つとして、伐採だけでなく種苗の育成や剪定も行う。高く伸びた樹木では、脚立や梯子などでは届かない場合が少なくない。そこで人が木に登り、細かく枝などをチェックして伐る伐らないを決めて作業するのである。
なぜ、日本でこのような技術が
注目されるようになったか。
背景には、個人宅の庭や神社寺院の境内、あるいは街路樹や公園などの樹木が大木化していることがある。戦後植えた木が数十年経って大きく育ったからだ。すると枝葉が伸びすぎて周囲が日陰になったり、電線に絡んだりすることもある。樹勢が弱まり病害虫で枯れるケースも多発するようになった。
そんな樹木が急に倒れたり大きな枝が折れて落ちたりしたら、周囲の建物や人などにどんな被害をもたらすかわからない。所有者は賠償請求される恐れもある。あるいは落葉が多すぎて掃除が大変という事情から伐りたい、しかし周辺は住宅で普通に倒せないため処置に困ることが少なくなかった。
しかし、高所作業車を樹木の近くに寄せられない場所も多いし、手間や経費が大きい。そこでロープを使って人が直接木に登り、梢や枝を伐採していく手法が求められるようになったのだ。
もう一つの理由として、日本の林業従事者を悩ませている内的な問題がある。
現在の林業は、重機で伐採・搬出することが増えた。求められる技術も土木作業のような道づくりや重機の操縦になりつつある。一方で木材の用途は、建材から合板やバイオマス発電燃料用など材質を問わない分野が増えてきた。山の木を全部伐採してしまう皆伐も進んでいる。