「駆除」「予防」「防護」林業の獣害対策に決め手はない! 知識を身につけ適切な対策を
2021/04/05
ちなみに獣害が増えたのは、人工林に動物の餌がなくて飢えているからとする声があるが、的外れな主張だ。間伐遅れで林内が暗く下草のない人工林もあるが、逆に広葉樹が入り込み植林木が圧迫されている現場も少なくない。むしろ餌が多くあるから数が増えたと考えるべきだろう。生息数の増加は林業者なら誰もが感じているはずだ。
完全に防ぐのは難しいが、欠かせないのは林業者自身が動物に関する知識を身につけることだ。どんな条件だと動物が人工林を狙うのか、設置した柵を乗り越えるのか。また出会った場合はどう対応をすべきか。十分な知識を持たないと、対策も逆効果になりかねない。間伐材を切り捨てておけば動物が通りにくくなるだろうと思ったら、倒した樹木の枝葉を食べるためにシカが集まってきた例も聞く。
何より動物と真剣に向き合う覚悟が求められている。
PROFILE
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。
著書
『獣害列島』
獣害は、今や農業被害だけではない。シカやカモシカ、ウサギなどの野生動物は、再造林した苗を食い尽くし、またクマとシカは収穫間近の木々の樹皮を剥いで価値を下落させるなど林業に甚大な被害を出しているのだ。そして森林生態系を破壊し、山村から人を追い出し、都会にまで押し寄せるようになった。なぜ、これほど野生動物が増えたのか、日本の自然はどう変わったのか、この緊急事態に何ができるのか。現場からの声とともに届ける。
FOREST JOURNAL vol.6(2020年冬号)より転載