チェンソーアートは林業を支えるビジネスになるか? 安全管理や技術向上に貢献
2020/05/07
チェンソーアートに
取り組む効果とは?
改めてチェンソーアートに取り組む効果を考えると、まずチェンソーを扱う技術が身につく。切断するだけの使い方ではなく、細かな操作で丸太に繊細な造形を行うテクニックを磨けるのだ。木質を読んで刃の入れ方を知ることにもつながる。ときに曲線に切ったり、表面をなぞることで鳥類の羽毛や魚の鱗、獣の毛並みまで表現できる。そうした技術は、本業でも活かせるだろう。
そして重要なのは、徹底的な安全管理と環境への配慮だ。チェンソーアートを行うときは防護服やイヤマフの着用などを条件に課した。今でこそ林業界にも義務化の流れができたが、それを早くから強く提唱したのである。そしてオイルも生分解性の植物オイルを使用するよう推奨し、大量に出る削り屑の処分などにも気をつかった。
造るものは、基本的に丸太の太さの中でデザインを考えなければならない。最初の頃は動物が多かった。フクロウが定番とされ、その後クマやイヌなど工夫されていく。しかし今では、昆虫から人物、抽象的な造形まで実に多彩だ。また何本もの丸太を組み合わせる技術も生まれ、実物大のウマや恐竜など巨大なモニュメントまで大きな広がりを持っている。また、さまざまな動植物を組み合わせ一つの情景を描く大作も登場している。
チェンソーそのものも先が尖った細かな細工のできるカービング用チェンソーも登場しているし、作品にペインティングされることもある。もはや動物や人間の表情まで表現して「粗削り」とは言わせないほどの繊細な作品が当たり前になりつつある。
日本でチェンソーアートが急速に発展したのは、独特のクラブやスクールの結成が大きな役割を果たしたようだ。自己流ではなく仲間を作って技術の共有化が進んだことが大きい。そしてこれが林業界にも少なからぬ影響を与えている。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。