林業から花園へ! スギ林に咲くアジサイが林業事業のリスク分散に
2020/01/27
そこで大量供給できるところを探したところ、民間のみちのくあじさい園にたどり着いたという。
摘み取った花は、まず乾燥させてから脱色し特殊な潤滑液を浸透させる。そして着色し直す。だから材料は咲き終わった花が向いている。ちょうど花を見に来る観光シーズンが終わった時期に花を摘み取るのがよいからバッティングしないのだ。
伊藤さんは、花を出荷するだけでなく、自らプリザーブドフラワーの生産にも乗り出した。2007年から大学や岩手県などと連携しつつ、プリザーブドフラワー生産技術の研究を行い、花園の近くに加工施設を建設した。
需要は多いから、近隣の農家もアジサイ栽培を勧めている。そして花のシーズンが終わった8月から10月にかけて花を摘み取る。それは地元農家に新たな雇用を生み出したことにもなった。
2010年にアジサイを栽培する農家とともにみちのくあじさい加工組合を設立。花を集めて2010年秋から生産を開始した。今や年間30万輪以上のプリザーブドフラワーを出荷する。また販売会社と業務提携し全国販売も始めている。おかげで年間を通して地元に仕事が生まれたのである。
アジサイを活用した地域づくりも進行中だ。地元もアジサイによる地域づくりに力を入れている。あじさいの郷づくり推進会議もつくられて、それらの活動が平成23年度の「美の里づくりコンクール」で美の里づくり審査会特別賞を受賞している。
林業からスタートした伊藤さんだが、林床を利用して新たな景観を生み出し、観光やプリザーブドフラワー生産と、経営の幅を広げた。それが地域全体の活性化にもつながっている。東日本大震災で一時期観光客は激減したが、プリザードフラワー用のアジサイ花生産が雇用と収入を支えた。一つの事業に集中するのではなく、多様化がリスク分散にも繋がることは、ここでも証明された。
林業から花園へ。さらに観光からプリザードフラワー生産へ。常に多角化を進めている。これは伊藤さんの挑戦だが、何も彼だけではない。さまざまな人が挑戦している。花もアジサイばかりではなく、さまざまな花に可能性がある。加工もプリザードフラワーのほか、ドライフラワーや押し花、さらに「食べる花」づくりに乗り出した企業や地域もある。山間地の立地を活かした事業はまだまだ可能性があるだろう。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。