「みちのくあじさい園」の経営で名所となった林業事業
2020/01/24
そこで森の一部を「みちのくあじさい園」として整備して入場料をいただく代わりに、駐車場やトイレ、休憩所を設置した。アジサイを見て歩く遊歩道もつくった。足の悪い人向きにカートも用意した。やがて軽食を出し土産物も用意するようになった。
花の集客力はバカにならない。山間部にあるみちのくあじさい園も、近年は年間数万人が訪れるようになっていた。そこで本格的にアジサイ園の経営に力を入れるようになった。思えば大都市の近郊や京都・奈良の寺院など、各地にサクラやウメ、ツツジ、ツバキ、ハス、ボタン……と様々な花を売り物にしている名所がある。彼らの入場料収入に加えて飲食や土産物の購入などによる経済効果も大きかった。
林業は、長期的なスパンで経営しなければならない。植林してから最初の間伐材が収入になるまでに早くても20年はかかる。主伐までには50年以上、さらに100年単位で考えないといけない。もし、その間に短期収入を得られる事業があれば林業も安定して経営できるようになるだろう。
実は、そうした経営努力をしている林業事業体もそれなりにある。まったく違った業態の経営(酒、味噌醤油などの醸造業や飲食業、ファッション業など)などに進出するところもあるが、森林を利用した別のビジネスを展開するケースも少なくない。
たとえばシイタケやナメコ、シメジなどのキノコ栽培は珍しくない。さらに薬草や山野草の苗などの栽培のほか、キャンプ場経営もある。ここで短期利益を稼ぎだして本業を支えている。そんなバラエティの中にアジサイなどの観光花園も位置づけられるだろう。
これは何も林業を諦めたわけではない。林業を木材生産だけでなく、幅広く多角化・多様化させた経営なのである。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。