日本の森は“手遅れ”ではない! ドイツ式“気配り森林業”に学ぶ
2019/12/13
ポイントは
「光」のコントロール
では具体的にどうすれば単層林を複層混交林へと転換できるのか。「ポイントは光」ですと池田さん。
「樹木の成長に必要なのは水と土と空気、そして光です。このなかで人間がコントロールできるのは光だけ。樹木には光を好むものとそうでないものがいます。将来木に焦点を当てた不均質な間伐によって日当たりのいい場所、悪い場所といったように、多様な光環境をつくることで複層混交林化を進められます」。
もちろん、こうした間伐は定期的に行わなければ意味がない。そのためには継続的に利用できる、しっかりとした路網が重要になる。なかでも重要なのがトラックが侵入できる「森林基幹道」だ。特に急斜面な森林でこそ基幹道の整備が重要になるという。ランゲさんと池田さんはドイツでの道づくりのノウハウをベースに、日本でも基幹道づくりの指導を行ってきた。実際に、北海道や岐阜県などで、ふたりが地元の林業事業体とともにつくりあげた森林基幹道は、開設から数年が経過した今も、しっかりと機能し続けている。
日本の森は
「手遅れ」ではない
池田さんとランゲさんは複層混交林化に向けての道筋を明確にしめしてくれた。それでも、「本当にできるのか?」と思う林業関係者は多いはずだ。実際に講演後の質疑応答でも「樹齢が60年を超えた単層林は、もはや手遅れでは?」との疑問の声が上がった。
それに対して「決して手遅れではない」と即答する池田さん。ランゲさんも「スギやヒノキの樹齢を考えてみてください」と促す。
「スギやヒノキは600年は生きます。60年なんてまだまだ子どものようなもの。成長力は十分に残されています。実際に私たちが2010年から森林経営に携わってきた北海道や岐阜のいくつかの森林は、この10年弱で複層混交林化のプロセスが大きく進行しました。だから諦める必要はないし、皆伐なんてもってのほかです。日本の自然をもっと信じてください」。
この後もさらに質疑応答は続き、時間いっぱいまで参加者からの熱心な質問が続いた。最後にランゲさんは「複層混交林化は決して難しいことではない。メソッドもきちんとあります。ただしそれを学べるのはここではない。森の中で学ぶしかありません。やれることは、きっとまだまだたくさんあるはずです」と締めくくった。
講演者 プロフィール
●ミヒャエル・ランゲ
1961年生まれ。ドイツ人。ドイツ、シュバルツヴァルト地域で25年以上に渡って森林官として市有林の森林経営に従事。森林業の包括的知識と現場経験を持ち、森林作業士マイスターコースの講師としての経験も持つ。再生可能エネルギーや景観(里山)マネジメントの知識と経験も豊富。2010年より、日本の森林事業のサポートやコンサルティングに携わる。
●池田憲昭
1972年長崎生まれ。ドイツ、ヴァルトキルヒ市在住。Arch Joint Vision(ドイツ)代表、Smart Sustainable Solutions(日本)社代表取締役。MIT Energy Vision GbR社(ドイツ)共同経営者。20年以上ドイツに暮らし、ドイツ語学文化と森林環境学の知識をベースに、森林、農業、木造建築、再生可能エネルギー、地域創生など幅広いテーマを対象に、執筆、コンサルティングを手がける。2010年より、ドイツの森林官らとともに日本の森林事業のサポートやコンサルティングに携わる。
取材・文/松田敦