研究からビジネスに!早生樹植林のこれから
2019/10/30
また農地である耕作放棄地に植林するのは法的な課題も残る。行政の対応も整備しておかねばならない。
一方で新たな樹種の木材は使い勝手も重要となる。実はかつて多く植えられたカラマツも、当初は育ちが早く30年で直径30センチになると期待されていた。
しかし、そうした材は脂が多くて製材に向いていなかった。結局、60年以上育てないとよい材が取れないことがわかったのである。今回の早生樹植林も、収穫時の材質まで見極める必要がある。
またコウヨウザンなどは外来種だから、日本の生態系に与える影響も考えておかねばならない。ここは慎重に進めるべきだろう。
それに早いといっても20年~30年かかるわけで、育った木材に十分な需要があるか不安もある。
大阪の早生植林材研究会は「民間だから、研究で終わらせずビジネスにしなければならない。それにはセンダン材を年間100 万立方メートル程度の生産が必要」する。これほどの材を供給するために必要な植林面積を確保するのは難しい。
もっとも旧態依然とした日本の林業に新たな動きが起きていることは歓迎すべきだ。早生樹には広葉樹種も多く、一部の針葉樹に偏ってきた日本の林業現場の多様性を広げる可能性もある。
単純にスギやヒノキの代わりを求めるのではなく、多様な樹種によって多様な木材需要に応える一つの手段として早生樹植林を生かすべきではないか。
同時に耕作放棄地への早生樹植林という提案は、過疎の進む農山村に新たな選択肢を示すことになる。地域と密着しつつ進めることを期待したい。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。