山から木がなくなる!? 早生樹植林の最前線を追う
2019/10/25
早生樹植林で注目されているもう一つの樹種は、コウヨウザンだ。
コウヨウザンは「広葉杉」と記す中国産の常緑針葉樹で、25年で胸高直径が30センチ以上になる。材質はスギより強度があり、乾燥も容易で反りや割れが出づらい、シロアリに強い…などの特徴がある。日本には江戸時代や明治時代にも導入されて各地で造林された。
ただ、木肌が若干荒く、また節の周辺に休眠芽の痕跡が点々と出る。これらの点は木肌の美しさにこだわる日本人好みではないのか、根付かなかった。
しかし、近年の住宅建築は木肌を見せる「真壁構法」ではなく、壁にクロスを張って柱や梁を見えなくする「大壁構法」が主流だ。また合板などの用途も増えた。それならコウヨウザン材でも何ら問題はない。むしろ硬い材質などは建材として優良だろう。
広島県庄原市には、約60年前に造林された1ヘクタール弱のコウヨウザンの森があった。
広島県林業技術センターでは、生長速度のほか樹幹が真っすぐで太さが変わりにくいことや、ヒノキ並みの強度であるなど、十分建築材に使えることを確認した。
苗は種子から育てる実生苗だが、今のところ種子は輸入である。ただ樹齢50年を超えた木を伐採した切り株から数年にわたって萌芽(ぼうが)が出る。この芽を育てれば再植林はせずに済む。スギやヒノキに代わる建築用材として有望かもしれない。
PROFILE
森林ジャーナリスト
田中淳夫
静岡大学農学部林学科卒業後、出版社や新聞社勤務を経て独立し、森林ジャーナリストに。森林や林業をテーマに執筆活動を行う。主な著作に『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『森は怪しいワンダーランド』(新泉社)、『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)、『絶望の林業』(新泉社)など多数。奈良県在住。